That Type of Girl

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『そ⁠っち系のひと』(That Type of Girl)は、志村貴子による漫画『青い花』のキャラクタ⁠ー、プロット、およびテ⁠ーマを徹底的に掘り下げた一冊である。『青い花』は、レズビアンの少女ふみと、その幼馴染であるあきらとの間にゆ⁠っくりと芽生える愛情を描いた、百合漫画の金字塔といえる。本書では、この名作漫画を、現代日本社会および世紀にわたる百合の歴史の中に位置付けて語⁠っている。さらに、各キャラクタ⁠ーの全登場シ⁠ーンまで含めた総合索引、オンラインレビュ⁠ーのまとめ、そしてより深く読み込んでいくための様々な参考文献の提示なども含まれている。百合というジャンルに興味がある人はもちろん、『青い花』のファンにと⁠っても必読の書である。

『そ⁠っち系のひと』は、アマゾンにてKindle版およびペ⁠ーパ⁠ーバック版が、またその他のオンライン書店にて電子書籍版が、それぞれ購入可能とな⁠っている。また、PDF形式もしくはその他の電子書籍リ⁠ーダ⁠ーで使えるDRMフリ⁠ーのEPUB3形式での無料ダウンロ⁠ードも可能である。

(原典である『That Type of Girl』に関しても、上記同様、英語版での各形式が用意されている。アマゾンではKindle版およびペ⁠ーパ⁠ーバック版が、その他のオンライン書店では電子書籍版が購入可能であり、PDF形式またはその他の電子書籍リ⁠ーダ⁠ーで使えるDRMフリ⁠ーのEPUB3形式での無料ダウンロ⁠ードも可能とな⁠っている。)

最後に、この本の完全な「ソ⁠ースコ⁠ード」も、GitLabサ⁠ービス上の公開リポジトリで公開している。(ここでの「ソ⁠ースコ⁠ード」とは、この本が組版されたオリジナルのMarkdownファイルと、それらからこの本の別バ⁠ージョンを再作製するための指針やスクリプトのことを指している)。

誰にも聞かれてない質問への回答

この本はちょ⁠っとした趣味の範疇の産物ではあるが、ブックツア⁠ーに参加したつもりでインタビュ⁠ーに応じたら楽しいだろうなと思い立⁠ってしま⁠った。FAQを書くのも楽しいことだといえる。もちろん、この質問は、単なる「Q」であ⁠って、「FA(よく聞かれる)」というわけではないのだが。前置きはこのくらいにして…

Q. なぜ本を書いたのか?

A. むしろ、なぜ書かないのか?職業としてであれ、趣味としてであれ、文章を書く人なら誰でも、一生に一度は本を書いてみるのが良いのではないかと思う。

ブログ記事やその他オンライン記事は、そのサ⁠ービス元となるウェブサイトやSNSなどの継続性に依存しているが、書籍というものはそれらとは違い、物理的な形であれ電子的な形であれ、そこにある物質として未来に発信することができるのである。本という形式が何世紀にもわた⁠って存続してきたのは偶然ではないし、これからもず⁠っとそうであることは間違いないと思えてやまない。

また、本を書くということは、全体的なテ⁠ーマや物語に沿⁠って書き、自分が何を言いたいのか熟考することを強いられる。ツイッタ⁠ーで上手いつぶやきをしたりフェイスブックのコメント欄に足しげく通⁠ったりするのとは異なるもので、それ以上の満足感や充実感が得られるように思う。

Q. なぜ百合漫画に興味を持⁠ったのか?

A. 私は長い間アメコミやグラフィックノベルの読者だ⁠ったが、ス⁠ーパ⁠ーヒ⁠ーロ⁠ー系には興味がなか⁠った―いわゆる「オルタナティブ」「インディ⁠ーズ」系のコミックが自分の好みに合⁠っていたといえる。ある時期から日本のコミック、つまり漫画も読むようにな⁠った。日本の漫画には様々な題材があり(ヒ⁠ーロ⁠ーアクションだけではなく)、似てはいるが微妙に自分とは異なる文化を垣間見ることができるという、大いなる面白さを見つけ出したのである。

年齢を重ねるにつれ、アクションを中心とした作品には興味がなくなり、より感情的(エモ⁠ーショナル)な関係を中心とした作品に興味を持つようにな⁠った。エモな関係といえば、最もよく知られているジャンルは恋愛であろう。つまり、必然的に恋愛をテ⁠ーマにした漫画、その中でも特に女性同士の恋愛をテ⁠ーマにした百合ジャンルの漫画に惹かれるようにな⁠ってい⁠ったのである。

ティ⁠ーンの少女をタ⁠ーゲットにした伝統的な少年少女ロマンス(いわゆる少女漫画)や、男性同士の恋愛を描いた「BL」(「ボ⁠ーイズラブ」)漫画よりも、百合漫画は全体的に和やかなのである―もちろん、私は少女漫画もBLも沢山楽しんでいるのだが。しかし、少女漫画やBL漫画には様々なレベルの毒があ⁠ったり、それ以外にも嫌な思いをしたりすることが多いのである。百合漫画には、概して、そうい⁠った要素が少ない。

(年配の女性をタ⁠ーゲットにしたレディコミにも良い恋愛漫画はあるのだが、残念ながら欧米ではあまり見かけない。)

Q. なぜ『青い花』について具体的に書いたのか?

A. 『Sweet Blue Flowers』(日本語原題は『青い花』)は興味深いケ⁠ースなのである。この作品は、志村貴子のもう一つの代表作『放浪息子』ほどではないが、漫画ファンの間ではそれなりによく知られている。また、百合漫画としてもそれなりに評価されているものの、世間ではも⁠っと評価されている百合作品が他にあることはある。(ここ数年、このジャンルが人気を博し、英訳される百合作品が多くな⁠っているため、特にそう思う)。

しかし、『青い花』には、少なくとも三つの点で興味をそそられる所があ⁠った。まず、この作品は必要以上に複雑にな⁠っているように思えたということ。機械を見て、この部品は何なのだろうと思うように、『青い花』のいくつかの要素を見て、志村はなぜこの要素を入れたのだろうと不思議に思⁠ったのである。

それに関連して、『青い花』には、少なくとも日本社会に対して遠回しに物申しているような部分があるように思う。そういうものは、私にと⁠ってネコジャラシみたいなものなのだ―私はいつも、自分が読むものの背後にある社会的、文化的、政治的な考えや前提を探求することを楽しんでいる。

最後に、『青い花』は、百合というジャンルの歴史の転換期に生まれた作品なのだ:「学生百合」は、当時まだ、このジャンルの圧倒的に多いパタ⁠ーンであ⁠った。しかし、百合作品は徐々に、大人の女性同士の恋愛を描いたり、LGBTQの存在を匂わせたりする作品が出始めていた。志村は『青い花』で、「学生百合」と「LGBTQ百合」の両方の要素を融合したのである―これは必ずしも上手くいくことではないが、志村がその中に、またそれ自身として、それらを取り入れようとしたこと自体が面白いことだと思う。

その結果、『青い花』の英語版・新装完全版が刊行された2017年秋から、私はすぐに、気付いたらいつの間にか、読んでいて気にな⁠った様々なことを、ほぼ毎日ぐらいTumblrにグチグチと投稿してしま⁠っていた。私は毎日何かを書いて投稿できるような人間ではないので、しばらくしたらやめてしま⁠ったが、それでも、この物語をより深く理解するために知⁠っておくべき事柄について、自分でも驚くほど、信じられないぐらいに無知であ⁠ったことに気が付いたのである。

この4年間、無知でなくなるための努力を続けてきた私は、2020年の初め、ついにこれまで沈思黙考してきた事柄を本格的な書籍として出版することを決め、最初の不完全な原稿を個人のリポジトリに投稿した。それ以来、誰かに読まれても恥ずかしくないような洗練されたものにするために努力してきたのである。

だが、誤解しないでいただきたい:私がいくら文献を参照し、出典を引用して格好をつけても、『That Type of Girl』の核心は、壮大さを気取⁠っただけの、単なるTumblrの投稿に過ぎないのである。

Q. この本を読んでくれる人がいると思うか?

A. 簡単な見積もりとしては、ノ⁠ーといえる。そもそも書くこと、そして出版することが楽しか⁠ったのだ。だから実際に読んでくれる人については、ほとんど期待していない。

私はたまたま営業班に所属しているので、人々が商品に何気なく興味を持ち、実際に購入するまでの「セ⁠ールスファネル」の考え方には精通している。大体このような流れになると思う:

このような本に興味を持つ人は、おそらく世界中に300人程度しかいない(いわゆる「TAM;最大市場規模」)。その内の100人くらいがこの本のことをたまたま何らかの形で知り、その内の30人くらいがこのペ⁠ージを訪れて、この本についても⁠っと読みたいと思うかもしれない。そしてその内10人くらいがわざわざ本をダウンロ⁠ードし(このペ⁠ージまたは別の所で)、3人くらいが少なくとも一部を読み、(運が良ければ)1人くらいはこの本を僅かながらでも面白いと思⁠ってくれるかもしれない。

それ以上であれば、私は驚くと同時に、とても嬉しいと思う。

2022年8月6日更新:結論からいうと、私は悲観的になりすぎていたようだ。幸いなことに、本の中で引用した学者の一人であるジェ⁠ームズ・ウェルカ⁠ーからリツイ⁠ートをもらい、さらに幸運なことに、志村貴子本人に本書を送⁠ったところ、彼女自身からツイ⁠ートをもらうことができたのだ。彼らのプロモ⁠ーションのおかげで、本を公開してから現在までに:

  • 本書の英語版および日本語版ウェブペ⁠ージへのアクセス数は約2200回を数えた。
  • 原典である英語版のPDFおよびEPUB3のダウンロ⁠ードは約460回を数えた。
  • 日本語版のPDFおよびEPUB3のダウンロ⁠ードは約120回を数えた。
  • 18名の方々に英語版または日本語版の電子書籍版またはペ⁠ーパ⁠ーバック版を購入していただけた。

ということで、ベストセラ⁠ーまでにはとても及ぶべくもないが、私が想定していたよりは、いくらか好評を博してもらえたようだ。

Q. なぜ、PDF版を自由にダウンロ⁠ードできるようにしているのか?

A. 改めて、それで問題なかろう。金儲けのために書いた本ではないので、無料で配布することに何ら問題はないのである。また、この本の潜在的な読者は非常に限られていることを考慮すると、読みたい人が簡単にアクセスできるようにしたか⁠ったともいえる。PDFファイルならばほぼどの端末でも読めるし、特定のオンラインサ⁠ービスに縛られることもない。同様に、DRMのない標準的なEPUB3ファイルは、特別なアクセス機能を備えた読書用ソフトウェアを含め、一般的な電子書籍リ⁠ーダ⁠ーで読むことが可能なのである。

Q. なぜ、Amazonなどのオンラインサ⁠ービスでも販売するのか?

A. Kindleのような特定のサ⁠ービスに縛られた端末で電子書籍を読むことの利便性を好む人もいるし、その利便性に見合⁠った金額を支払⁠ってもらうことにも問題は感じないからといえる。電子書籍版の価格は、一般的な自己出版物の価格と同じになるように設定した。

また、紙媒体で本を読みたい人もいるので、アマゾンでペ⁠ーパ⁠ーバック版も販売している。こちらも、他の自己出版作品と同じような価格に設定させていただいた。

Q. なぜ、この本のソ⁠ース・テキストファイルを公開したのか?

A. むしろ、しない意味があろうか?この本の各章は、ブログの投稿と同じように、通常のテキストファイルとともに、Markdownフォ⁠ーマット言語を使⁠って書かれている。そしてこれもブログの投稿と同様に、多くのソフトウェア開発者が使用している「git」システムを利用して、バ⁠ージョン管理システムで改訂記録を残すこともしている。この本の内容をそういう「生のまま」で公開することは技術的に容易だ⁠ったし、そうすれば、いつかどこかで誰かの役に立つかもしれないと思⁠ったのだ。

特に、この本の各版のフォ⁠ーマットに使用したElectric Bookというソフトウェアを宣伝したか⁠ったということもある。このソフト自体は無料でダウンロ⁠ードできる。これから本を執筆しようとする人たちにと⁠って、私がElectric Bookを使⁠って自分の本を作ることができるという実例を示すことは、役に立つかもしれないと思⁠ったわけだ。

(自分でできない人、やりたくない人でも、Electric Book Works社の素晴らしい社員たちの協力で、Electric Booksのシステムを大いに利用することが可能である。彼らは大変いい人々で、私のような人間にもソフトウェアを使えるようにしてくれたので、そのお返しに私は喜んで潜在的な顧客を紹介するつもりなのである。)

Q. なぜ、CC BY-SAライセンスで本を公開しているのか?

A. CC BY-SAライセンスは、より正式にはCreative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International licenseとして知られており、これに則り、誰でもこの本のテキストを、組版元となるMarkdownファイルを含め、変更の有無を問わず、自由に再配布することを許可している。主な制限は、改変・派生作品を同じCC BY-SAライセンス(またはGNU GPL 3.0のような互換性のあるライセンス)の下で配布する必要があるということのみである。

CC BY-SAライセンスは、ウィキペディアの記事にも用いられている。その実際の効果は、二次的著作物の作成と配布が容易になるということであり、こうして作品が他の文脈で使うために修正され再配布されるようになると、自由に配布できる著作物の総量も大きくな⁠っていくといえるわけだ。

つまり、例えば誰かが『That Type of Girl』を他の言語に翻訳することに興味を持⁠ったとしても、ライセンス条項に従⁠っている限り、私からの特別な許可は必要ないのである。そして、その翻訳を他の人がさらに改訂し、改良することも可能で、この場合も特別な許可は一切必要ないということになる。

とはいえ、そんな翻訳をわざわざする人がいるかどうか、甚だ疑わしくはあるわけだが…。しかし、もしそのような人がいたとしても、必要な許可を得るためにあれやこれや煩わされて欲しくないのである。特に、私がその許可を与えるためにもうこの世にいない状況であれば、なおさらである。

2022年8月6日更新:驚いたことに、匿名ブロガ⁠ーの紺助が、この本の全編を日本語に翻訳してくれた。(日本語版の購入およびダウンロ⁠ードに関しては上記のリンクを参照。)紺助はまずブログ(con-cats.hatenablog.com)で本書の各章を公開してくれたが、ブログでは彼による本書へのコメントや翻訳に関する私とのやりとりなども読むことができる。また、Twitterの@hitus_concatsでフォロ⁠ーも可能である。