そっち系のひと

That Type of Girl

『そっち系のひと』(That Type of Girl)は、志村貴子さんの漫画『青い花』のキャラクタ⁠ー、スト⁠ーリ⁠ー、テ⁠ーマを徹底解明した一冊である。『青い花』は、レズビアンの少女ふみと幼なじみのあきらとの間にゆっくりと芽生える愛を描いた百合漫画の金字塔といえよう。当同人誌では、この漫画を、現代日本社会と百合の、世紀にわたる歴史の中に位置づけており、また、キャラクタ⁠ーと登場シ⁠ーンの総合インデックス、オンラインレビュ⁠ーへの指針、そしてより深く読むための様々な提案リストなども作中に含めておいた。『青い花』のファンはもちろん、百合というジャンルに興味がある人にとっても必読の書になってくれれば嬉しく思う。

『That Type of Girl』は、アマゾンで、Kindle版、ペ⁠ーパ⁠ーバック版が、そして電子書籍としてその他のオンライン書店で購入することが可能となっている。また、PDF形式の無料ダウンロ⁠ードも可能である。

UPDATE 2022-05-15: I’ve also made available a draft PDF version of the Japanese translation currently being created. (See below.)

この本の完全な「ソ⁠ースコ⁠ード」も、GitLabサ⁠ービス上の公開リポジトリで公開している。(ここでの「ソ⁠ースコ⁠ード」とは、この本が組版されたオリジナルのMarkdownファイルと、それらからこの本の別バ⁠ージョンを再作製するための指針やスクリプトのことを指している)。

誰にも聞かれてない質問への回答

この本はちょっとした趣味の範疇の産物とはいえ、ブックツア⁠ーに参加したつもりでインタビュ⁠ーに応じたら楽しいだろうなと思い立ってしまった。FAQ(よく聞かれる質問)を書くのも楽しいしね。無論、この質問は、単なる「Q」であって、「FA(よく聞かれる)」というわけではないんだけど。前置きはこのくらいにして…

Q. なぜ本を書いたの?

A. むしろ、なぜ書かないの?職業としてであれ、趣味としてであれ、文章を書く人なら誰でも、一生に一度は本を書いてみるのが良いと思うよ。

ブログ記事やその他オンライン記事なんかは、そのサ⁠ービス元となるウェブサイトやSNSなんかの継続性に依存しているけれど、それとは違って書籍というものは、物理的な形であれ電子的な形であれ、そこにある物質として未来に発信することができるんだ。本という形式が何世紀にもわたって存続してきたのは偶然ではないし、これからもずっとそうであることは間違いないと思えるね。

また、本を書くということは、全体的なテ⁠ーマや物語に沿って書き、自分が何を言いたいのか熟考することを強いられるんだ。ツイッタ⁠ーのつぶやきやフェイスブックのコメント欄とは正反対で、それ以上の満足感や充実感が得られるように思うよ。

Q. なぜ百合漫画に興味を持ったの?

A. 私は長い間アメコミやグラフィックノベルの読者だったんだけど、ス⁠ーパ⁠ーヒ⁠ーロ⁠ー系ではなく、いわゆる「オルタナティブ」「インディ⁠ーズ」系のコミックが好きだったんだ。ある時期から日本のコミック、つまり漫画も読むようになった。日本漫画には様々な題材があり(ヒ⁠ーロ⁠ーアクションだけじゃない!)、似てはいるけど微妙に自分とは異なる文化を垣間見ることができるという、大いなる面白さを見つけ出したのさ。

年齢を重ねるにつれ、アクションを中心とした作品には興味がなくなり、よりエモ⁠ーショナルな関係を中心とした作品に興味を持つようになった。エモな関係といえば、最もよく知られているジャンルは恋愛だろう。だから、必然的に恋愛をテ⁠ーマにした漫画、その中でも特に女性同士の恋愛をテ⁠ーマにした百合ジャンルの漫画に惹かれるようになったんだ。

ティ⁠ーンの少女をタ⁠ーゲットにした伝統的なボ⁠ーイ・ガ⁠ール・ロマンス(少女漫画)や、男性同士の恋愛を描いた『BL』(ボ⁠ーイズラブ)漫画よりも、百合漫画は全体的に和やかなんだ―もちろん、私は少女漫画もBLも沢山楽しんでいるんだけどね。でも、少女漫画とかBL漫画では、様々なレベルの毒があったり、それ以外にも嫌な思いをすることが多いんだ。百合漫画には、概して、そういった要素が少ない。

(年配の女性をタ⁠ーゲットにしたレディコミにも良い恋愛漫画はあるけれど、欧米ではあまり見かけないのが残念。)

Q. なぜ『青い花』について具体的に書いたの?

A. 『青い花』(現地のタイトルは『Sweet Blue Flowers』)は興味深いケ⁠ースなんだ。この作品は、志村貴子さんのもう1つの代表作『放浪息子』ほどではないが、漫画ファンの間ではそれなりによく知られている。また、百合漫画としてもそれなりに評価されているものの、世間ではもっと評価されている百合作品も一応他にあることはある。(ここ数年、このジャンルが人気を博し、英訳される百合作品が多くなっているため、特にそう思う)。

しかし、『青い花』には、少なくとも3つの点で興味をそそられる所があった。まず、この作品は必要以上に複雑になっているように思えたんだ。機械を見て、この部品は何なのだろうと思うように、『青い花』のいくつかの要素を見て、志村さんはなぜこの要素を入れたのだろうと不思議に思ったのである。

それに関連して、『青い花』には、少なくとも日本社会に対して遠まわしに物申しているような部分があるように思う。そういうものは、私にとってネコジャラシみたいなものなのだ―私はいつも、自分が読むものの背後にある社会的、文化的、政治的な考えや前提を探求することを楽しんでいるからね。

最後に、『青い花』は、百合というジャンルの歴史の転換期に生まれた作品なのだ:「学生百合」は、当時まだ、このジャンルの圧倒的に多いパタ⁠ーンであった。しかし、百合作品は徐々に、大人の女性同士の恋愛を描いたり、LGBTQの存在を匂わせたりする作品が出始めていた。志村さんは『青い花』で、「学生百合」と「LGBTQ百合」の両方の要素を融合したのだ―これは必ずしもうまくいくことではないが、志村さんがその中に、またそれ自身として、それらを取り入れようとしたこと自体が面白いと思う。

その結果、『青い花』の英語版・新装完全版が刊行された2017年秋から、私はすぐに、気付いたらいつの間にか、読んでいて気になった様々なことを、ほぼ毎日ぐらいTumblrにグチグチと投稿してしまっていた。私は毎日何かを書いて投稿できるような人間ではないので、しばらくしたらやめてしまったんだが、それでも、この物語をより深く理解するために知っておくべき事柄について、自分が息を呑むほど、信じられないぐらいに無知であったことに気が付いたんだ。

この4年間、無知でなくなるための努力を続けてきた私は、2020年の初め、ついに自分の考察を本格的な書籍として出版することを決め、最初の不完全な原稿を個人のリポジトリに投稿した。それ以来、誰かに読まれても恥ずかしくないような洗練されたものにするために努力してきたのである。

でも、誤解しないでくれ:私がいくら文献を参照し、出典を引用して格好をつけても、「That Type of Girl」の核心は、壮大さを気取ったただのTumblrの投稿に過ぎないんだ。

Q. この本を読んでくれる人がいると思う?

A. 簡単な見積もりとしては、ノ⁠ーだね。そもそも書くこと、そして出版することが楽しかったんだ。だから実際に読んでくれる人については、ほとんど期待していない。

私はたまたま営業班に所属しているので、人々が商品に何気なく興味を持ち、実際に購入するまでの「セ⁠ールスファネル」の考え方には精通しているんだ。大体このような流れになると思う:

このような本に興味を持つ人は、おそらく世界中に300人程度しかいない(いわゆる「TAM;最大市場規模」)。その内の100人くらいがこの本のことをたまたま何らかの形で知り、その内の30人くらいがこのペ⁠ージを訪れて、この本についてもっと読みたいと思うかもしれない。そしてその内10人くらいがわざわざ本をダウンロ⁠ードし(このペ⁠ージまたは別の所で)、3人くらいが少なくとも一部を読み、(運が良ければ)1人くらいはこの本をちょいちょい面白いと思ってくれるかもしれない。

それ以上であれば、私は驚くと同時に、とても嬉しいと思う。

UPDATE 2022-04-27: As it turns out, I was overly pessimistic. I was lucky enough to get a retweet from James Welker, one of the academics I quoted in the book, and even more lucky to get a tweet from Takako Shimura herself, after I sent her a copy of the book. Thanks to their promotion, in the month and a half since the book was released this page has been visited over a thousand times, there have been almost three hundred downloads of the PDF version of the book, and just over a dozen people have bought the e-book or paperback versions. So it’s far from being a best-seller, but it’s somewhat more popular than I assumed it would be.

Q. なぜ、PDF版を自由にダウンロ⁠ードできるようにしているの?

A. 改めて、それで良くない?金儲けのために書いた本ではないので、無料で配布することに何ら問題はないんだ。また、この本の潜在的な読者は非常に限られていることを考慮すると、読みたい人が簡単にアクセスできるようにしたかったんだ。PDFファイルならほぼどの端末でも読めるし、特定のオンラインサ⁠ービスに縛られることもないからね。

Q. なぜ、Amazonなどのオンラインサ⁠ービスでも販売するの?

A. Kindleのような特定のサ⁠ービスに縛られた端末で電子書籍を読むことの利便性を好む人もいるし、その利便性に見合った金額を支払ってもらうことにも問題は感じないからね。電子書籍版の価格は、一般的な自費出版物の価格と同じになるように設定しているよ。

また、紙媒体で本を読みたい人もいるので、アマゾンでペ⁠ーパ⁠ーバック版も販売している。こちらも、他の自費出版作品と同じような価格に設定さ。

Q. なぜ、この本のソ⁠ース・テキストファイルを公開したの?

A. いいでしょ?この本の各章は、ブログの投稿と同じように、通常のテキストファイルとともに、Markdownフォ⁠ーマット言語を使って書いたんだ。そしてこれもブログの投稿と同様に、多くのソフトウェア開発者が使用している「git」システムを利用して、バ⁠ージョン管理システムで改訂記録を残したりもしている。この本の内容をそういう「生のまま」で公開することは技術的に容易だったし、そうすれば、いつかどこかで誰かの役に立つかもしれないと思ったんだ。

特に、この本の各版のフォ⁠ーマットに使用したElectric Bookというソフトウェアを宣伝したかったということもあるね。このソフト自体は無料でダウンロ⁠ードできる。これから著者になろうとする人たちにとって、私がElectric Bookを使って自分の本を作ることができるという実例を示すことは、役に立つかもしれないと思ったわけだ。

(自分でできない人、やりたくない人でも、Electric Book Works社の素晴らしい社員たちの協力で、Electric Booksのシステムを大いに利用することができるんだ。彼らはめちゃくちゃいい奴らで、私のような人間にもソフトウェアを使えるようにしてくれたので、そのお返しに私は喜んで潜在的な顧客を紹介するつもりなんだ。)

Q. なぜ、CC BY-SAライセンスで本を公開しているの?

A. CC BY-SAライセンスは、より正式にはCreative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International licenseとして知られており、これに則り、誰でもこの本のテキストを、組版元となるMarkdownファイルを含め、変更ありでもなしでも自由に再配布することを許可しているよ。主な制限は、改変・派生作品を同じCC BY-SAライセンス(またはGNU GPL 3.0のような互換性のあるライセンス)の下で配布する必要があるということだね。

CC BY-SAライセンスは、ウィキペディアの記事にも用いられている。その実際の効果は、二次的著作物の作成と配布が容易になるということであり、こうして作品が他の文脈で使うために修正され再配布されるようになると、自由に配布できる著作物の総量も大きくなっていくという寸法さ。

つまり、例えば誰かが『That Type of Girl』を他の言語に翻訳することに興味を持ったとしても、ライセンス条項に従っている限り、私からの特別な許可は必要ないんだ。そして、その翻訳を他の人がさらに改訂し、改良することも可能で、この場合も特別な許可は一切必要ないということになる。

まぁ、そんな翻訳をわざわざする人がいるかどうか、甚だ疑わしくはあるけどね。でも、もしそのような人がいたとしても、必要な許可を得るためにあれやこれや煩わされて欲しくないんだ。私がその許可を与えるためにもうこの世にいない状況であれば、特にね!

UPDATE 2022-04-27: To my surprise, someone is in fact doing a translation, in this case to Japanese. Those who can read Japanese should check out the pseudonymous Konsuke’s blog at con-cats.hatenablog.com, where he’s posting chapters from the book as he translates them, along with his own comments about the book and related matters. For notification of new chapters as they’re translated, follow him on Twitter at @hitus_concats.

See also above for information on how to download a draft PDF version of the translation.